土曜日はあまり気温も上がらず涼やかでしたね。
おかげで昼前に映画を観る為に出掛けてもさほど汗も掻かず良い気分で劇場へと迎えました。
まさに風も程よくあり、夏の雲も立ち昇り、五年ぶりの宮崎駿監督の『風立ちぬ』の初日に相応しい天候でしたね。いつものシネコンに辿り着き入場の最中、私の鑑賞する回が満席のアナウンスが流れ、観終わって帰って流れるニュースを観ればどうやら私も含まれる初日午後1時時点での興行成績も前作の『崖の上のポニョ』の公開時を27%ほど上回ったそうで、殊の外、心配された一般の方の食い付きも上々の様です。
正直、零戦の生みの親、掘越二郎氏の半生を同時期の作家、堀辰雄氏のエピソードもミックスしたごちゃまぜの主人公として描くと発表されてからあの物議を模しだした4分間の予告映像が公開されるまでは、スタジオジブリらしい鳥型飛行機に乗る少年期の掘越二郎の映像予告しか目に出来なかった訳で一体全体どんな話になるのだろうと思っていましたが、蓋を開けてみれば、宮さんお得意のモブシーンも戦闘シーンもすべて健在なれどどこか切なくでも今まで観た宮さんの映画のどれよりも心に響く映画に仕上がっていました。
きっと私も歳を重ねて半世紀近く生きてきた事も多分に影響してるのだろうと思いますが、主人公・二郎と薄幸のヒロイン・菜穂子との短くも美しい結婚生活のシーンを観てると若くして愛しながらも結婚にまで至らなかったヒトとの事をダブらせてしまい涙が止まらなくなりましたよ。 ↑カーソルを合わせると(iPhone/iPadの場合はタップすると)背表紙の画像に切り替わります。
予告に登場したファンタジックな鳥型飛行機は二郎の夢の中の産物であり、イタリアの飛行機設計家カプローニとの邂逅の場での出来事でありそれがこのお話しをスタジオジブリ作品である事を観客に認識せしめつつも新たな階段を上る作品へと昇華させてるのではないでしょうか。
なにより、この作品の功労者は宮さんから作画依頼ではなく声の出演依頼をされ、それを承知した事で想像以上に掘越二郎と言う人間をスクリーンに存在たらしめた庵野監督とその声こそ掘越二郎と腹に決めた宮崎監督の感性ではないでしょうか。
むろん、それだけで映画が成立する程甘いものではない筈ですが本来ならあの悲惨な時代を描き出さざるを得ない部分を多分に含んでいるにも関わらず観終わってみれば中学生の頃、死ぬほど観た事を後悔した『遠すぎた橋』と言う第二次世界戦争を綴った映画の記憶を遙か彼方に消し去ってくれる凛とした何かを残してくれた作品力は間違いなく素晴らしいものだと思います。
そして、掘越二郎氏が生きたあの時代はまさに私の祖母が生きた時代、そのものである事を観ながら薄々感じ、帰ってから祖母の年齢と掘越二郎氏の年齢が一歳しか違わない事をしっかと確認して子供時代に語ってくれた祖母の記憶を何処かに留めながら観ていたからあんなにも心が震えたんだなぁと何度も映像を思い出し反芻してしまいました。
前作の『崖の上のポニョ』は結局、映画館にも行かず、Blu-rayを買いながらまだ観ていないと言う体たらくですが、この『風立ちぬ』だけはBlu-ray化されるまでにもっと音響のいい映画館を探して何度となく観たいと思います。モノラル映画だとは思えない突き刺さる何かを持ってるあの妙なパワーのあるエンジン音や地鳴りの音を何度も聴いてみたいですから。